DeNAの「WELQ」騒動は、2016年を印象づけるネガティブな事件となった。今回逆手に取られた、「神」同然ともいえるGoogleの検索システムが、想像以上に未熟だったことも失望を誘う。こうした、DeNAの「WELQ」騒動にも、勝者と敗者は存在する。まとめの意味を込めて、整理しよう。
DeNAの「WELQ」騒動は、2016年を印象づけるネガティブな事件となった。
「死にたい」というワードのGoogle検索で「WELQ」記事がトップ表示されることに疑義を唱える、10月末の報道を受けて発展したこの騒動。約1カ月の時間をかけて、DeNAが運営するキュレーションメディアプラットフォーム「DeNAパレット」の10媒体すべてが非公開化される事態にまで至った。その10媒体には、同社のドル箱メディア「MERY」も含まれる。
さらに、DeNAは12月7日、謝罪会見を実施。3時間にもおよぶ質疑応答が行われ、同社の守安功社長は、「会社の成長を追い求めすぎる過程で、正しい情報を提供することへ配慮を欠いた運営となっていた」と語った。また、会見に同席した、同社創業者でもある南場智子会長も、「批判が企業風土や組織の在り方に及ぶ事態となり、創業者として責任ある立場にあります」と、自身の責任について言及している。
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キュレーションという新しい表現スタイルを隠れ蓑に、盗用まがいの明らかに一線を超えた行為が実行されていたことを浮き彫りにした、今回の騒動。ひとまず、落ち着きを取り戻しつつあるようだが、同じデジタルパブリッシングを生業をするものとしては、なんとも後味の悪さを拭い切れない。
というのも、業界の人間は誰しも、DeNAパレットのかつての成長に対して、「なんてうまいことやっているんだ」というやっかみと、「というか足もと危うすぎないか?」という危惧が入り混じった、複雑な想いを常に抱いていた。さらに、今回の件で注目が集まった、クラウドソーシングという業態を生んだ、デジタルメディア特有の「制作費の少なさ」は、どこのメディアでも悩みのタネだからだ。
また、いまやインターネットにおいて、「神」同然ともいえるGoogleの検索システムが、使い方によっては想像以上に未熟だったことも失望を誘う。あれほど、今後はコンテンツの中身を重視するといっておきながら、いまだにテクニックに屈してしまっているのだ。コンテンツ制作者として、まさに梯子を外された思いがする。
こうした、DeNAの「WELQ」騒動にも、勝者と敗者は存在する。まとめの意味を込めて、整理しておこう。
Winners / 勝者たち
10カテゴリーの競合メディア:10のカテゴリーに及んだ「DeNAパレット」のデジタルメディア。そのすべてが非公開化されたいま、出稿先を求めるマーケターが行き着く先は、それらの競合メディアだ。また、読者も新しい情報を求めて、そこに行き着く。
というか、正当にキュレーションされたコンテンツならまだしも、盗用まがいのコンテンツに関しては、そもそも読者も広告費も彼らのものだったはずだ。そのため、「行き着く」という表現ではなく、「還元される」という表現が正しいのだろう。
フリーランススタッフ/クラウドワークス登録者:デジタルメディアの制作費の少なさは、末端の部分にシワ寄せが行くことが多かった。今回の一件で、正しい優れたコンテンツを制作するには、それなりのコストが必要なことが明確に示されたはずだ。今後はいままで以上に適正な報酬の価格設定が行われるだろう。しかし、その分、「腕の立つライター」と「そうでもないライター」の二極化は進む可能性はある。それなりの金額を支払う以上、要求される成果は大きくなるからだ。
Facebook:米大統領選をめぐるフェイクニュース問題ではFacebookの分が悪かった。ニュースフィードのアルゴリズムによって、正しくない記事が自動的に強調されたユーザーも多かったからだ。だが、日本においてはGoogleの検索結果であっても、信用におけない場合があることが露呈された。今後、「やはり口コミが一番」という世論が強まれば、Facebookに追い風になるかもしれない。
デジタルジャーナリズム:今回の騒動で、大きな存在感を発したのは、デジタルオリジンのメディアだ。特に内部関係者の告発によるマニュアルの存在を示したBuzzFeed JAPANや、10媒体の非公開化とほぼ同時に、守安社長のインタビュー記事を掲載したTechCrunchの働きは目覚ましい。レガシーメディアの報道を大きく先行した、初の事例ではないだろうか?
ネットユーザー:一線を越えたやり方で記事が粗製乱造されるメディアに対しては、一旦楔が打たれた。これを契機にデジタルメディアには、より正確な情報を伝える努力が求められる。それを利用するネットユーザーにとっては、まさに朗報となっただろう。
Losers / 敗者たち
その他キュレーションメディア:キュレーションとリライトは違う。さらに、引用と盗用も異なる行為だ。しかし、この一件で、それらの言葉がすべて怪しい印象に変わった。その余波を受け、サイバーエージェントの「Spotlight」や「by.S」、LINEの「NAVERまとめ」など、キュレーションメディアを標榜するサイトは、一部記事の非公開化など、対応に追われた。
クラウドソーシング事業者:「誰でもメディア」の時代に、誰でもライターになれるクラウドソーシングという業態は、時間のない主婦でも気軽に社会参加できる、一種の理想郷に見えた。しかし、その報酬の低さに、現代の「蟹工船」と一部では揶揄されるようなこともある。すべての案件が、1文字1円に満たないわけではないだろうが、マイナスイメージを払拭する必要はさらに高まった。
Google:同社については、これまでも何度も触れた。今回、もっとも大きな失望を買った関係者のひとりだろう。もちろん、Googleのシステムが有用で素晴らしいのは変わらない。しかし、悪貨が良貨を駆逐することもある。この問題は、まさにそれを絵に描いた形となった。
「DeNAパレット」への出稿企業および代理店:関係者の想いは、誰しも「かなり危ういとは感じてはいたが、ここまでひどいとは思わなかった」といったものだろう。しかし、過去は変えられない。成果を求めるのはもちろん理解できるが、支援(スポンサー)する立場として、より適切な場を選ぶことも必要だろう。
あらためてネットユーザー:今回の一件で見えてきたのは、フリーミアムモデルの限界だ。意味のあるコンテンツを提供するにはコストがかかる。しかし、それに対して、広告に頼ったビジネスモデルは、あまりに不安定だ。また、昨年来より問題となっているアドブロック利用者は、増加の一方である。しかし、これ以上、コストを削減することは叶わない。となれば、穴埋めに、利用ユーザーへなんらかの負担を強いる企業も増えてくることも考えられる。
※公開後、一部加筆・修正を加えた。
Written by 長田真
Photo by Thinkstock / GettyImage