いま、ほとんどのデジタル広告に注がれる資金は、GoogleかFacebookに集約されている。しかし、その後、GoogleとFacebook以外のデジタル広告関係者には、どれだけその恩恵が届いているのかは、定かではない。果たして本当に2社がデジタル広告の成長をすべて奪っていってしまっているのか?
いま、ほとんどのデジタル広告に注がれる資金は、GoogleかFacebookに集約されている。しかし、その後、GoogleとFacebook以外のデジタル広告関係者には、どれだけその恩恵が届いているのかは、定かではない。
最近になり、デジタル広告業界の成長分は、すべてGoogleとFacebookに占有されてしまっていると主張するリサーチャーも出てきた。彼らによると、ほかの会社の利益は縮む一方であるという。しかし、こういったリサーチャーたちは、統一された手法で調査をしているわけではない。程度の差こそあれ、こういった調査は、大企業の収益が強調され、ロングテールは過小評価されがちである。
もうひとつの問題点は、こういった調査はお金の出処だけを調べて、最終的にどこに行くかは調べないことだ。単純に言うと、使われている資金は多くがGoogleを経由し、もしくはそれよりも少ない額がFacebookを経由し、それからパブリッシャーのポケットへと到達する。
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果たして本当にGoogleとFacebookがデジタル広告の成長をすべて奪っていってしまっているのか、この「インターネットの謎」に迫りたい。
異なる手法
データにも欠陥があることを今回のアメリカ大統領選挙が示した。良いデータが手に入るとは限らず、デジタル広告の成長をトラッキングする業界の共通手法があるわけでも無い。リサーチャーたちは、そのときどきに最善だと思われる手法をもって、穴を埋めていくしかないのだ。このような経緯から、異なる分析結果が発表されるのは、実に自然なことである。
ピボタル・リサーチ(Pivotal Research)のアナリスト、ブライアン・ワイザー氏の計算によると、2015年米デジタル広告における成長分の74.6%は、FacebookとGoogleの取り分となったという。そして、2016年前半だけに注目すると、なんとその数字は98%にまで達する。
デジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next)もまた、アメリカの広告業界の成長のほぼすべてをGoogleとFacebookが吸い取っていると主張。同社の調査によると、2016年前半は、GoogleとFacebookを除くと、業界は平均して縮小を見せたとなっている。
ピボタルによる世界規模の調査結果も、アメリカ国内の結果と似ていると、同社のワイザー氏は指摘。ゼニス・メディア(Zenith Media)は、2016年の統計はまだ発表できるものが無いものの、2015年の全世界におけるデジタル広告の成長分のうち、81%がFacebookとGoogleの取り分だったと語った。
マグナ・グローバル(Magna Global)も2016年前半は、世界規模で見ても、業界で平均して数%の減少を見せたと発表。これはデジタル・コンテンツ・ネクストの調査結果と同様だ。マグナによると2016年現在、全世界のデジタル広告マーケットの64%をFacebookとGoogleが占有しているという。
ロングテール問題
こういった数字に違いが生まれてしまうのは、デジタル広告マーケットの大きさを測るのに、異なる手法をそれぞれが使っていることにある。多くのリサーチャーは、アメリカのオンライン広告の業界団体インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)の数字をもとに、広告費の推計を出している。
IABの調査は、PwCによって請け負われている。しかし、この調査もほかの調査と同様に、あらゆるインターネット企業を捉えられているわけではないのだ(オハイオ州でヒラリー・クリントン大統領候補が大差で勝つと示した調査があったのも記憶に新しい)。
直近の調査でPwCは、調査に参加しなかった会社については「利用可能なパブリックな情報にもとづいて、控えめな収益推計を出している」と述べている。こういった注意深い態度は、調査結果が膨れ上がるのを防ぐ一方で、公開されている数字ばかりが強調される危険性もある。PwCは、米DIGIDAYのインタビュー申し込みを断わったものの、スポークスパーソンによるとPwCは、バイヤーではなくセラーを調査していると認めた。
「ロングテールは実際にすごく長いものなのだ。そういった文脈では可視化されていない成長の余白は非常に大きい」と、メディアブランド・ソサエティ(Mediabrands Society)のソーシャル・メディア・エグゼクティブ・ディレクターであるジェームズ・ダグラス氏は言う。
また別のリサーチャーは、「FacebookとGoogleの数字を把握するのは簡単だ。彼らは収益を報告しているから、見逃すことは無い。しかし、実際のマーケットはIABの報告書よりも大きいだろう。それを考えると、調査結果は少し小さく見た方が良いかもしれない」と語る。
デジタルメディア企業で、急激に成長しているところも存在するのは確かだ。それを見て「成長は全部、GoogleとFacebookにもって行かれている」と、まとめてしまうのは難しい。
総収益と純収益を区別する
総収益と純収益の区別も気をつけないといけないポイントだ。FacebookとGoogleがすべてのデジタル広告成長を受け取っているとする調査は、総収益を扱っている。つまり、それぞれのチャンネルをどうやってお金が流れているかをトラッキングしているということだ。
これでは、収益が実際にどこが受け取っているのかを知ることはできない、しかし、それでも総収益の流れをトラッキングすることは重要だ。GoogleとFacebookが総収益の成長をすべて受け取っているということは、パブリッシャーがバイヤーとの直接の関係性を失いつつあることを意味すると、ピボタルのワイザー氏は説明する。この流れの一部をパブリッシャーが受け取っていたとしても、彼らは取引の内容をコントロールする力をもっていない。資金はプラットフォームを通じて流れているのだ。
純収益ではなく総収益をリサーチャーたちが追いかけるのには、ほかにも理由がある。「純収益を把握しようとすると、かなりの部分を推測しないといけない。それにたいして総収益の場合は、蓋然性の高い数字を出すことができる」と、ワイザー氏は語る。
純収益を予測する会社のひとつがeマーケター(eMarketer)だ。彼らは、2016年の世界規模でのデジタル広告業界における、純収益成長の57.6%は、GoogleとFacebookが受け取るだろうと予測している。
純収益の推定額を得るために、eマーケターはFacebookやGoogleのさまざまな収益シェアの仕組みについて、バランスを図らなければいけなかった。シニア予測アナリストであるマーティン・ウトレラス氏によると、公になっている情報に加えて、彼らはコンテンツクリエーターやエージェンシーとのインタビューから得た、収益配分の仕組みについての要因を考慮に入れているとのことだ。
「たとえば、あるアプリがGoogle検索を使って広告収益を得ているとしたら、その会社はそこでお金を得ていることになる。それはGoogleのものではない。そういった参加者たちを無視することはできない、だから純収益ベースで調査しているんだ」と、ウトレラス氏は語った。
費やされた資金はどこに行くのか
eマーケターが出す純収益の58%という数字と、ピボタルの総収益の98%という数字の差は、相当な金額である。
「広告の申し込みが入れば、それが直ちに、FacebookやGoogleに行くというわけではない」と、ホライズン・メディアのデジタル投資部門の副社長であるサラ・バー氏は語る。「業界全体の点と点を結んでみた場合、(FacebookとGoogle)はあらゆる広告購入に参加しているように見える」。
しかし、純収益が正確かどうかを計算するのは非常に難しい、それだけでなく資金がどこに行っているのかを知るのも非常に難しいのだ。YouTubeだけをとってみても、何千ものコンテンツパートナーたちが存在していると、ウトレラス氏は指摘する。
これらの数字ひとつ、どれでも調査しようとすると、クオリティの点で非常に幅があることが分かる。しかし、調査しようとすらしなかったら、人々はすべての数字が同じ意味をもっていると思ってしまいがちだ」と、ワイザー氏は言う。
Ross Benes(原文 / 訳:塚本 紺)