大手広告主のテレビとデジタルの予算配分が均衡、あるいはデジタル優位に向かっている。これに伴い、新しい測定、評価の方法が提案されている。広告予算配分に直結するこの分野では、常に「誰が、どう、測定、評価するか」が問われている。
大手広告主のテレビとデジタルの予算配分が均衡、あるいはデジタル優位に向かっている。これに伴い、新しい測定、評価の方法が提案されている。広告予算配分に直結するこの分野では、常に「誰が、どう、測定、評価するか」が問われている。
ESPNとニールセンが自宅外視聴測定
米最大スポーツネットワークESPNは10日(現地時間)、自宅でのテレビ視聴と自宅外でのデジタルデバイスによるストリーミングによる視聴を同時に測定するツールを導入すると発表した。
ニールセンのテレビ視聴測定は米テレビ界で支配的。デバイスに測定ツールをインストールした7万7000人による自宅外視聴測定を組み合わせるという。
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ESPNはロイヤルティの高いスポーツ視聴者を抱え、米テレビでももっとも価値の高いネットワーク。ESPNがニールセンとこの試みに踏み出したことは大きなニュースだ。
オラクルがテレビ広告測定に参入
予想外の参入者がオラクルだ。オラクルはテレビ広告測定企業シミュルメディア(Simulmedia)と提携した。シミュルメディアはもともとテレビ視聴と購買データをミックスした、テレビ広告測定を広告主に提供する独自路線を歩んでいた。主に購買データの部分をオラクルが補強する。オラクルデータクラウドの3兆ドル(約320兆円)の消費者購買データ、1500に上るデータパートナー、クレジットカード会社から小売データが合わさる。これによりどのテレビ広告を買えばいいかを評価できる。
シミュルメディアのシステムにブランドが保有するCRM(顧客関係管理)データも注ぎ込めるという。
博報堂DYとヤフーがクロスデバイス
日本でも興味深い座組が生まれた。Handy Marketing、博報堂DYメディアパートナーズ、ヤフージャパンは10日、テレビとインターネットの次世代型メディアプラニングツール「Handy Media Planner」を提供することに合意したと発表した。株式会社Handy Marketingは博報堂DYメディアパートナーズ 50.1%、Yahoo! JAPAN 49%、DAC 0.9%の出資。
「Handy Media Planner」では、約8000人の「Yahoo!メディアオーディエンスパネル」の広告接触などのデータを含めた10万人規模のテレビCMおよびインターネット広告の広告効果データを活用し、テレビCM と PC・モバイルのインターネット広告を組み合わせた最適な出稿パターンを提示します。
博報堂DYとヤフーによる測定・評価・出稿までがパッケージになったサービスだ。テレビとYahoo! JAPANの利用者には重なる部分が多分にあると言われる。
GFはMMMを提供
Googleは今月7日、ニールセン、ニュースター・マーケットシェア、マーケティング・マネジメント・アナリティクスとのマーケティング・ミックス・モデル(MMM)における提携を開始したと発表した。
MMMは売上などのマーケティング目標に影響しているとされる要因を「時系列データ」として蓄積し、「要因間の関係を表現するモデル式」を導き出す手法だ。
パートナーはGoogleのディスプレイ、検索、動画キャンペーンの標準化されたフォーマットでのデータを得られるという。データにより、テレビ、プリント、他のデジタルなどのキャンペーンチャネルとGoogleのパフォーマンス(ROIなど)を比べられる。
Facebookは類似するプログラムを1月に開始している(この記事に詳しい)。
Facebook Japanは3月30日に同社で開いたプレス向けラウンドテーブルで、ニールセン、カンター、インテージとの提携を明らかにした。Facebook Japan クライアント・パートナー・マネジャー の川野佑樹氏は日本の消費財メーカーの要望に対応し、同社の「人ベースの測定」と3社とのパートナーシップに基づいたクロスメディアの測定・評価(同社はマーケティングサイエンスと呼んでいる)を広告主に提供すると説明した。
インテージとの提携により実店舗での購買データを測定に加えている(前出のオラクルの例と似ている)。
デジタル動画を買わないわけにはいかない
米国、英国のデジタル広告費がテレビを越そうとし、広告業界のランドスケープが変化している。広告主はデジタル動画を買いたい。昨年はその動画に関する視聴数などのデータでFacebookの誤りが指摘された。もともとウォールドガーデンに対し、第三者機関の測定を受け入れを求める声が強かった。Google傘下のYouTubeとFacebookは「独立系」の測定企業に対し、自社プラットフォームの測定を許すことでメディア・レーティング・カウンシル(MRC)のオーディットを受け入れた。
YouTubeは顕著な伸びを続けているし、Facebookも2015年あたりから加速度的に動画に投資をしてきている。
MMMの提供や、ほかのエージェンシー的なサービスが拡充されるのは、両社が広告主がテレビ、デジタル広告のパフォーマンスを評価する場に食い込みたい思惑の裏返しだ。そこが広告予算配分を決定する場だ。
善意の第三者を探して
世界最大級の広告予算をもつP&Gのチーフ・ブランド・オフィサーで、アメリカ広告主協会(ANA)の会長も務めるマーク・プリチャード氏はキャンペーンにこう語っている。
またメディアバイイングに対しても、透明性の向上を求めている。現在は「あまりにも多くのエージェンシーが、自分たちの仕事を自ら評価している状態」であり、メディア・レーティング・カウンシル(MRC)によるビューアビリティーの基準や、第三者機関による認定を早急に導入すべきだという。
測定と評価はほぼ不可分であり、評価が広告出稿の決定要因になる。このため自分のメディアの測定・評価を他者に行われたくないという防衛意識が生まれる。あるいは、仮に業界の測定・評価部分を握れば、ゲームが極めて有利になる。フェアに振る舞える「善意の第三者」を探すことは本当に難しく、そもそも「善意の第三者」は存在しない、というのが現状かもしれない。
Written by 吉田拓史
Photograph by GettyImage