『家電批評』『MONOQLO』『LDK』など、広告を掲載せずに、本音の商品レビューを展開する雑誌が人気の晋遊舎。同社は2016年10月、「360.life(サンロクマルドットライフ)」という商品テストサイトをローンチした。各本誌同様に広告を掲載しない「360.life」の戦略について、西尾崇彦社長に聞いた。
来る2月8日にウェスティン都ホテル京都で開催される「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT」では、晋遊舎 西尾崇彦氏のセッションが行われる。詳細はこちらから!
『家電批評』『MONOQLO』『LDK』、いま晋遊舎の雑誌が売れている。13年も続く出版不況において、書店から返品される雑誌の比率が約44%に達するなか、現在月刊21万部を発行している『LDK』(630円)の平均実売率は80%以上。2017年8月に独立創刊したばかりの隔月刊『LDK the Beauty』(680円)でさえも、すでに15万部の発行を誇るという。
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いまや「雑誌界の『奇跡』」と表現される、晋遊舎の看板3誌。その人気の秘密は、ウソ・忌憚のない商品レビュー記事だ。それぞれの雑誌のカテゴリーに属する商品を一同に集め、編集部員が100%ユーザー目線で実施した商品テストに裏付けられる、「本音」のレビューがウケている。その「本音」を担保するため、彼らの雑誌には広告が一切掲載されていない。
そんな晋遊舎は2016年10月、「360.life(サンロクマルドットライフ)」という情報サイトをローンチした。『家電批評』『MONOQLO』『LDK』の情報を取りまとめるだけでなく、独自の商品テスト記事も展開する同サイトは、「日本初! 本格商品テストWeb」と銘打っている。しかも、各本誌同様に、このサイトにも広告は一切掲載されていない。
求められる信頼性
「ローンチから1年経って、2018年1月現在における月間ビュー数は約2000万。今後1億ビューまで達成できる方策は見えている」と、晋遊舎社長の西尾崇彦氏は語る。現在41歳の同氏は若くして、『家電批評』『MONOQLO』『LDK』を創刊し、同社を出版界の寵児に仕立てた人物だ。
「これだけアクセスがあれば、ディスプレイ広告でマネタイズするのはラクだし、実際ベンダーから広告単価引き上げの誘いもある。しかし、『360.life』には、広告収入以上に期待できる、別の可能性があると思っている」。
思い返せば、「360.life」が創刊された2016年後半は、インターネットの信頼性が大きく問われはじめた時期だ。米大統領選挙におけるフェイクニュース問題、日本ではDeNA「Welq」におけるコピペメディア問題などが大きな話題となり、デジタルメディアの情報は健全化が強く求められるようになった。
「『360.life』のローンチ時期は、実は2016年よりも3年も前に予定してた。だが、のらりくらりしているうちに、デジタルメディアの信頼性に関する議論が出てきたので、むしろ良かったと思っている。アクセスはあるが、真偽の定かではないところと真っ向勝負しても、それはそれで大変だったろう」。
出版事業との足並み
「のらりくらりしているうちに」という表現の裏側には、先に述べた同社における出版事業の堅調さがある。そこで、必要最低限以上の収益を得られているから、焦ってデジタル化する必要性がなかったのだ。その間、デジタルメディアの一部はクオリティを引き換えにしても規模を追い求め、逆に晋遊舎は自社コンテンツの信頼性を高めてきた。
「物理的な本のコンテンツには、とてつもなく力がある」と、西尾氏は力説する。「シャンプーひとつをとっても、すべての商品を揃えて、比較レビューをすれば、記事1本に100万円以上の制作費がかかる」。それと、たとえば1本数百円レベルで量産されるような記事の価値は、比べるべくもないだろう。
「360.life」を単体の事業とした新会社を立ち上げていたら、こんな悠長なことは言ってられなかったと、西尾氏は述懐する。「やっぱり本業があるから、ウチは耐えられる」。だからこそ、アドテクノロジーによって打ち立てられた「デジタル広告の民主化」に、いい意味で「毒されずにすんだ」のだ。
広告とは別の可能性
とはいえ、いつまでも投資フェーズにとどまり続けるわけにはいかない。実際問題、実売収入がないデジタルメディアである「360.life」の収益は、いまのところページビューに対して少ないという。しかし、コンテンツ力はあるし、信頼性も高い。それを「広告収入以上に期待できる、別の可能性」で、いかにマネタイズするのか?
西尾氏は、そこにふたつの勝ち筋を見ている。ひとつがユーザーに対してベストな買い物体験を提供する「コンシェルジュサービス」。もうひとつはメーカーに対して商品の品質を保証する認証マークを提供する「認証サービス」だ。そうした戦略に向けた、デジタルトランスレーションも組織的に進めているという。
「いまのデジタルパブリッシング業界は成熟している。だから、新しいことをはじめたときに、既存の作法に乗っ取らないやり方は、周囲から相当横やりが入る。それに耐えられる企業は、なかなかない」と、西尾氏は語る。「そのうえで、独自の戦略をもって、Web単体のコンテンツとして、『360.life』をいかに成り立たせるかが、次のフェーズだ」。
「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT」のセッションでは、晋遊舎・西尾氏が考える出版社のデジタルトランスレーションのあり方、またこのふたつの勝ち筋について深く掘り下げていく。
Written by 長田真
Photo from Shutterstock