モバイル・インターネットはいよいよ「動画の時代」に突入した。そのため、視聴フォーマットは「タテ型」が主流となりつつあるという。アメリカで若者から絶大な支持を受ける3つのアプリ「Snapchat」「Periscope」「Meerkat」が、これまで誰も疑わなかった「ヨコ型動画」の独占状態を破ろうとしているのだ。
モバイル・インターネットはいよいよ「動画の時代」に突入した。そのため、視聴フォーマットは「タテ型」が主流となりつつあるという。アメリカで若者から絶大な支持を受ける3つのアプリ「Snapchat」「Periscope」「Meerkat」が、これまで誰も疑わなかった「ヨコ型動画」の独占状態を破ろうとしているのだ。
かつてスマートフォンで動画を見るには、いちいちヨコに倒す動作が必要だった。主流だった動画の規格「16:9」に、スマホの画面を最適化させるためだ。しかし、スマホをタテに持ったままで見られる「タテ型動画」のサービスが登場し始めたところ、たちまちブームとなる。スマホはタテにながめる方が自然だと、誰もが感じていたのだろう。
この衝撃的なムーブメントを引き起こしたのは若年層だ。急成長中の「タテ型動画」メッセンジャーアプリ「Snapchat」と、ライブ動画配信アプリ「Periscope」「Meerkat」の熱烈な支持者である。
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「Snapchat」は、「タテ型動画」専用スタジオを設立
なかでも「Snapchat」の人気は出色といえる。画像、動画、短文を共有でき、それらが閲覧された直後、たったの10秒で消失する機能が、「より現実の会話に近い」と人気を集めているのだ。現在、1億デイリーアクティブユーザー(DAU)を集め、そのうちの37%が18~24歳。利用者は10~20代の若年層に集中しており、この層をターゲットにした広告商品の開発が目下の同社の課題だと言われている。
去る6月、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」の会場で「Snapchat」は、イギリスの日刊紙「Daily Mail」、同国の大手広告代理店「WPP」とともに、「タテ型動画」制作専門の「クリエイティブ・スタジオを開設した」と発表。「タテ型動画」アプリの広告市場のみならず、制作市場の独占をも視野に入れているのだろう。
「Daily Mail」北米支社のCEO、ジョン・シュタインバーグ氏は「今回設立するクリエイティブ・スタジオは3社で運営し、『タテ型動画』を制作することに集中する」と語る。さらに、「我々は『タテ型動画』の未来に賭けた。将来的にモバイル動画は『タテ型』が主流になるだろう」と自信を示した。
米DIGIDAYによると、パブリッシャーが「Snapchat」専門スタッフを置く動きも拡大しているようだ。「Snapchat」がパブリッシャーにもたらす利益はいまだ定かではないが、今年1月に開設したアプリ内のコンテンツチャンネル「Discover」には、「Buzzfeed」「Cosmopolitan」「CNN」「People」「National Geographic」などの一流パブリッシャーが参加している。
ちなみに、パブリッシャーにとって「Snapchat」の専門家を雇う動きは、大きな投資となる。CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)が、「タテ型動画」のフォーマットやインターフェイスなどと、まったく異なるからだ。アメリカのニューステレビ局「CNN」は、他のプラットフォームには専門スタッフを置いていないが、「Snapchat」だけには用意。このサービスが「新しいユーザー層を獲得できる場所」だと考えているためだ。
「Periscope」「Meerkat」のユーザー獲得競争
さらに今年、「タテ型動画」に新しい動きがあった。まず、ライブ動画配信アプリ「Meerkat(ミーアキャット)」が、3月上旬にテキサス州で開催されたアートとテクノロジーの祭典「SxSW」で脚光を浴びたのだ。ボツワナ、ナミビアの砂漠に生息するマングース科の動物「ミーアキャット」が名前の由来となるこのアプリ。「タテ型動画」のライブ配信を5,000人が同時に視聴できる。
そんななか、Twitterもライブ配信事業に参戦。約1億ドルでライブ動画配信アプリ「Periscope(ペリスコープ)」を買収し、3月下旬に「Meerkat」キラーとして再リリースしたのだ。そうして、両者のユーザー獲得競争の火蓋が切って落とされた。
この2つのアプリは、すぐさま企業のマーケティング戦略に利用されるようになる。ある乗用車メーカーは、自動車ショーで新車発表ライブに採用。ゼネラルエレクトリック(GE)は、ドローン(無人機)にスマートフォンを搭載し、ライブ中継を行った。さらに「YouTuber」のように、食レポ、ビデオブログ、街案内で、フォロワーを集めるユーザーも現れた。
現在、有利なのは「Periscope」。Twitterの後ろ盾を生かし、リードを拡大しているのだ。「今選ぶなら絶対に『Periscope』だ」。「Periscope」のローンチ直後、オンラインメディア「The Verge」のソーシャルマーケティング部長、サム・シェファー氏は語る。
「『Periscope』と『Meerkat』はどちらもライブ配信を行うアプリだ。配信後24時間以内なら繰り返し視聴可能な『Periscope』に対して、『Meerkat』はライブ配信しかできない。『Periscope』はTwitterとの連携がスムーズで、コンテンツ制作者、キュレーター、消費者をよくまとめあげている」
いまや「Meerkat」を引き離しつつある「Periscope」だが、8月13日の発表では、アカウント数が1000万を突破し、8月第2週だけで動画視聴時間は「40年」に達した。「Periscope」は、DAU(デイリーアクティブユーザー)よりも動画視聴時間が重要な指標だと主張している。
ついに、あのYouTubeも「タテ型動画」に対応
3つのアプリが推し進めるタテ型の流れは、ヨコ型を頑なに守ってきた動画共有サイト「YouTube」にも及ぶ。「YouTube」はこの7月、Android、iOS両方のアプリの「タテ型動画」対応を発表した。それまでは、タテ型のYouTube動画をスマートフォンで再生すると、両脇に黒い空間ができて見づらい状態だったのだ。その一方、日本でも元「LINE」の代表取締役・森川亮氏が、2015年4月より「タテ型動画」のファッションマガジン「C CHANNEL」を立ち上げた。
実際問題、「Snapchat」「Periscope」「Meerkat」のコンテンツが、あらゆる世代に広く受け入れられるには、さまざまな課題があるだろう。人々の限られたスキマ時間を埋めるには、これらのアプリは少々「ライブ感」が強すぎる。しかし、動画のフォーマットについては、その限りではない。アメリカの若者の支持を受けて、新しく市民権を得た「タテ型動画」の勢いは、これから世界に飛び火するはずだ。
Photo by Thinkstock/Getty Images
(吉田拓史)