ハフポスト日本版は5月21日から25日の5日間、ブルーボトルコーヒー六本木カフェにて、読者へコーヒーを奢るだけのイベントを開催した。これは日本版ローンチ5周年を記念したキャンペーン「#アタラシイ時間」の一貫。期間中は三々五々に集まった読者たちへ、ハフポスト日本版が1杯500円のコーヒーを振る舞った。
「コーヒーを奢るから話をしよう」と、ハフポスト日本版は読者を誘った。
ハフポスト日本版は5月21日から25日の5日間、ブルーボトルコーヒー六本木カフェにて、読者へコーヒーを奢るだけのイベントを開催。これは日本版ローンチ5周年を記念したキャンペーン「#アタラシイ時間」の一貫だ。期間中は、毎日午後5時から午後7時まで、三々五々に集まった読者たちへ、ハフポスト日本版が1名につき1杯、約500円のコーヒーを振る舞った。
参加者総数は約380名。それぞれの素性も残業前に立ち寄ったビジネスマンや保育園のお迎えを夫に任せた女性会社役員、就職活動に悩む大学生などさまざまだ。ハフポスト日本版編集部員もほぼ全員入れ替わりで参加し、ざっくばらんに読者たちと触れ合った。
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会話のテーマは、特にない。だが、名目上、「#アタラシイ時間」というキャンペーン名にちなんで、「時間について考える」というテーマは設定されていた。それも、実際の交流を重ねるうちに、露と消えた。たとえば、参加者のなかには、スタンフォード大のアメフト部の日本人コーチもいたという。そこで、日大・危険タックルについて話をしていたら、300万PVを超える人気記事が生まれた。
ブランクの時間を提供
「読者にブランク(空白)の時間を提供したいと思っていた」と、ハフポスト日本版の編集長補佐・ニュースエディターである南麻理江氏は、このイベントを企画したキッカケを語る。東京大学文学部出身の南氏は、新卒で博報堂/博報堂DYメディアパートナーズに入社した元広告ウーマンだ。「前職ではクライアント向けのイベントをいくつも見てきた。だが、メディアの意義を問い直したり、読者との関係性を再構築するという意味で、既存のイベントのやり方で正しいのかという疑問があった」。
昨今、大なり小なり、デジタルメディア主導のリアルイベント事例は事欠かない。枠売り広告が主体となるマネタイズに陰りが見え、新しい収益手段の画策に走った結果だ。そんななか、カンファレンスに商品体験など、イベントのスタイルはさまざまある。だが、ハフポスト日本版のこのイベントは、そうしたものとは根本的に違う。なぜならコンテンツがないからだ。
「すべてをお膳立てして、メディアが一方的に投げかけるスタイルにはしたくなかった」と、南氏は続ける。「どちらかというと空白の時間だったり、答えのない問いかけをして、それを埋めていく喜びを読者と共有したいと思った」。
コンテンツの誘惑
主催者としては、誰かゲストを呼んで講演してもらうなど、コンテンツを用意する誘惑にかられてしまうこともあったと、ハフポスト日本版編集長、竹下隆一郎氏は振り返る。コンテンツを用意せずに人が集まらなかったら、メディアの沽券に関わるし、さすがにコーヒー1杯ではインセンティブが働かないと思ったからだ。
「しかし、最終的にコンテンツを用意するのはやめようと決めた」と、竹下氏は続ける。「なぜなら、いまはメッセージを伝えるのが大変な時代だからだ。数多くのニュースメディアが存在するなか、ハフポストならではの視点で記事を作っても、伝わらない層がある。そこへリーチするには、記事じゃダメかもしれないと思った。だから、ポストテキストどころか、ポストアーティクル(コンテンツ)にして、コーヒーを奢るだけにしてみた」。
南氏も、明日、突然ハフポストがなくなっても、誰も気づかないんじゃないかという危機意識が常にあると語る。実際、月間2000万ユニークユーザーを達成していても、単なるニュースというだけなら、ほかにもいくらでもあるからだ。「それでも、伝えたいことが、私たちにはある。あらゆる手を使って、読者にリーチするなりエンゲージメントするなりしたい」。
初日はたったの20名
蓋を開けてみたら、初日の参加者はたった20名。しかし、計り知れない大きな手応えを感じたと、竹下氏は熱弁する。そこには圧倒的な熱量を持った読者が集まっていたからだ。
「たとえば、一番最初に話をしたのは学生さん。敷居が高く感じていたのか、勇気を出して参加してくれた様子だった。なにしろ、我々と話すために分厚い資料を用意してきてくれたくらい。こういう人は、今後もファンでいてくれると確信できた」。
その後、日を追うごとに、30人、40人と参加者は増えた。そして、最終日には200人も来場する。また、インスタグラム(Instagram)にも「#アタラシイ時間」のポストは、120以上も投稿されているという。
「これを事業会社のキャンペーンとして実施した場合、プランニングやプロモーションで大きな予算が必要になる。おそらく1000万円単位のお金は必要かと思うが、それの何十分の一しか、費用はかかっていない」。
マネタイズの可能性
なお、このイベントにおけるブルーボトルコーヒーの立場は広告主ではなく、パートナーだ。ブルーボトルコーヒーのPR担当である徳田匡志氏も今回の企画に参画はしたが、約20万円におよぶコーヒー代はハフポスト日本版の持ち出しとなっている。そのため、見た目としてはメディアによる単なるキャンペーンだが、竹下氏は今後、この座組を通して広告展開も考えているという。
現状、ハフポスト日本版の収益構造は、スポンサードポストとデジタル広告が大きな柱だ。しかし、竹下氏は単価とか成長性でいうと、スポンサードポストに可能性を感じている。スポンサードポストには、記事のメッセージを伝えるため、読者をリアルな場に呼ぶ「イベント」の商品展開も見えており、今回の取り組みも横展開できるかもしれないからだ。
「やはり広告主がリーチの限界に気づきはじめている。いくら何万に届けても全然効いてこないからだ」と、竹下氏は補足する。「それよりは、顔が見えたり、熱量のある数百人にメッセージを届けたほうがさらに広がると思っている」。
実際、参加者には、ハフポスト日本版のスポンサーもいた。同誌の読者がどういう人なのか、普段のレポートでは把握できない、リアルな雰囲気を確認しに来たのだ。そのスポンサーからは、「こういう人が読者なので安心した」と言われた。また、すでに大手飲料メーカーや外資企業から、同様のイベントに関する問い合わせもあったという。
時間の使い方を提案
ハフポスト日本版の5周年記念キャンペーン「#アタラシイ時間」では、平日の夕方にコーヒーを奢るだけでなく、さまざまな企画を実施している。たとえば、サントリースピリッツ株式会社のウイスキーアンバサダーにウイスキーの楽しみ方を教わるイベントや、長野県富士見町にあるコワーキングスペース「森のオフィス」を訪れ、「2拠点居住」を体験してみるツアー、30歳を超えてはじめてホストを経験してみた企画などだ。どれも「『アタラシイ時間』を過ごすことは、『アタラシイ自分』と出会えるチャンス」と謳い、人生を豊かにする時間の使い方を提案している。
「違う消費をすることで経済効果が生まれるし、それがキッカケで新しい仕事が生まれることもある」と、竹下氏は「#アタラシイ時間」について説明する。「昨日とは違う時間を、日本人一人ひとりが過ごせば、新しい価値が生まれて、日本の社会がもっと良くなると思う。それは企業など広告主にも新たな機会を提供することだと信じている」。
Written by 長田真
Image courtesy of ハフポスト日本版
Key Visual by SEESAW